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2015-10-08(Thu)

【インメモリー】36.エルとアール



【インメモリー】

36.エルとアール





 あの日が終わってから二年が経ったんだ、と気づいた時はなんだかとても不思議な気分になった。
 あっという間にあの日と同じような冬を二度も越えて、今はだんだんと暖かくなってきている。
 そんな私はついこの間学校を卒業したし、進学先も無事決まった。ずっと行きたかった王都の学校だ。偶然が上手く重なったのか、試験の点数が良くてなんとか奨学生の条件も満たすことが出来た。
 だからあと何日かしたら、私は入学やら入寮のための手続きが待ち構える王都へ出発する。入学の日まではまだ少し時間があるけれど、何度も往復するには王都は遠すぎるし、その分お金もかかるから私はそのまま早めの入寮を果たすことにした。
 ベンもサラも往復費くらい気にすることないって言ってくれたけれど、もうすぐ私の弟だか妹だか分からないけれど……とにかく一人増えるんだし、私に使うお金があるならその子のためにして欲しい。そう言うとサラは気にし過ぎだと怒っていたけれど、相変わらずベンは笑って好きにさせてくれた。
 そういうわけで、この町とも、アスターとも、ベンやサラ、アイリスに、大好きなあの人とも、他のたくさんの人達、それにもちろんあの二人ともしばらくのお別れになる。
 寂しくないと言えば全くの嘘になるけれど、楽しみなのも本当だ。
「それじゃあね、ルルちゃん」
「パトリシアさんもお元気で」
 最近の私は、あと少しで去る町をしっかりと見て、人と出会っておこうと思ってこうやって空き時間を見つけてはふらふらと歩くのが日課になっていた。
 今日は途中で一緒になったパトリシアさんが家でお茶を淹れてくれた。そのパトリシアさんの部屋には、未完成のパズルがぽつりと置いてある。
「寂しくなっちゃうなあ」
 パトリシアさんは本当に寂しそうに笑う。感情全部がこうやって表情にでるパトリシアさんは本当に素敵だと思う。そんな人だから、きっとあのパズルはいつまでも完成せず、テーブルの上でホコリもかぶらないまま、あの日のまま置かれているんだ。
「私も寂しい」
 この町を出て行くのも、ここの人たちに会えなくなるのも。
 あの日いなくなったあの二人のことも、まだ寂しい。
「でも、大丈夫。まっすぐ前へ進んだら、きっとその先のどこかで全部巡りあうもの」
 私が笑って見せると、パトリシアさんは「うん、そうだといいな」と泣きそうに笑った。
「どこかで、また出会えるよね」とパトリシアさんが囁くから、私は「そうよ」と何の根拠もなく断言して頷いた。


 パトリシアさんの家を出てからも、ふらふらと町を歩いて行く。
 学校の前を通り過ぎる。
 アイリスを含む学校の友達は、お別れパーティだとか言ってアスターですごく楽しいさよならをした。アイリスとは手紙のやりとりをしようって約束をして、彼女の住所をしっかりと受け取った。
 次に、サラが昔一人で暮らしていたアパートの前を通り過ぎる。
 サラは王都へ私が今度行く時に案内がてらベンと一緒に付いて来てくれるらしいから、さよならはまだ早い。 
 そうだ、明日は午後からあの人と遊ぶんだったっけ。私が王都に行くかもって初めて話した時は勝手に別れ話だと勘違いして大変だったのを思い出してくすりと笑う。離れ離れにはなってしまうけれどきっと大丈夫。あの人の一途さはよく知っている。サラの結婚ギリギリまで彼女に片思いし続けてたって聞いた時は笑ってしまったけれど。
 そんな懐かしい記憶がつめ込まれた町をゆっくり進む。
 さようなら。
 きっとこの日が、人生の数ある区切りのうちの一つだ。
 ――しばらくの、さようならだ。


 町をゆっくり散歩して、ほとんど沈みかけた夕日へ顔を向ける。
 あんまり遅いとベンもサラも心配する。そんなに心配される年でもないけれど。きっと二人にとって私はいつまでも幼いままなんだろう。
 アスターへ戻るために、ひとつ角を曲がる。
 と、足元に小さな影が飛び出てきた。
「きゃ!」
 私は慌てて足をとめたけれど、小さな影は「ぶっ!」と潰れた悲鳴をあげて私の足に顔面を盛大にぶつけてしまった。その反動で、ぽて、と尻もちをついたのは、まだまだ小さな女の子だった。
 くすんだ金髪を肩まで伸ばした、青い目をした女の子。軽いくせっ毛がぴょこぴょこと肩で跳ねていた。そんな彼女の前にしゃがみこむ。
「大丈夫? ごめんね、痛かったね」
 大きな碧眼を見返すと、女の子は抑えていた鼻から手を離して「へーき!」と笑って立ち上がった。ふわふわのスカートについた土を払ってやりながら、なんだかあの二人に似た女の子にそっと笑いかける。
「ねえ、お名前は?」
 私がそう尋ねたと同時に。
「エル!」
 そう呼ぶ女の人の声がした。
 声よりも名前に反応した私は目を見開いて声の方向を見た。エルと呼ばれた目の前の女の子は「まま!」と振り返って、真っ黒な髪に真っ黒な瞳をした小柄な女の人にぱたぱたと駆け寄っていく。
「もう、ママを放っていっちゃ駄目って何度も言ってるでしょう」
 呆れた口調や雰囲気が、サラによく似た人だと思った。エルという女の子を抱き上げたその女の人はにこりと笑ってから軽く頭を下げる。私も会釈を返した。
「ごめんなさいね。汚しちゃったりしてないかしら。うちの子ったら、目を離すとすぐに一人で追いかけっこを始めちゃうの。逃げ足が速くて困っちゃうわ」
「いえ、私は大丈夫で……。私がぶつかっちゃったんです。怪我はないですか」
「へーき!」
 女の人に抱えられた女の子がにっこりと笑って私にひらひらと手を振った。なんて人なつっこいんだろう。私の小さな時とは大違いだ。
「パパに似たのかしらね……。外面ばかりいいんだから」
 苦笑した女の人が「後で泣かないでね、エル」と女の子の頭を優しく撫でる。その名前を聞いて、再度はっとする。
 エル。
「エルちゃん、ですか」
「ええ。名前はレオノーラなんだけれどね。ふふ、頭文字で呼ぶなんて変でしょう、よく言われるんだけれど止められなくって」
「……いいえ、全然」
 私の言葉に、女の人が「え?」と小首を傾げた。ドクドクと心臓が早くなる。
 女の人がまた口を開いたけれど、女の子が「おねーちゃん、おなまえは」と笑うほうが早かった。私は「ルアンナ。でも、あなたはルルって呼んで」と女の子の髪をそっと撫でる。
「え、ルルさん……?――もしかして、少し先の角にある、喫茶店の」
 ああ、やっぱりそうなんだ、といろいろ理解して小さく頷く。何それ、聞いてないわ。
「――私、彼がいたうちは何度か行ったことがあるけれど、あなたとはタイミングが合わなくて……。でも、あなたの話は、彼から何度も……」
「じゃあ、その……。少しだけ、その喫茶店でお話しませんか」
 私の知らないところで、こうやって物事は進んでいくんだ。そして、進んだ先はこうやって出会うに違いない。
「おねーちゃん、どうしたの」
 小さな暖かい手が頬にぺたりと触れた。私は口元を両手で覆って、なんとか無理矢理に笑う。
 だけれど「なんでもないの、エル」と声を絞りだすのが精一杯で、私はそのまま何度も何度も涙を拭う羽目になった。そしてそっと小声で付け足すのだ「なんでもないの、アール」と。
 本当、馬鹿じゃないの。


 あの二人は、本当に馬鹿だ。
 そんな馬鹿に。
 エルとアールに。涙の雨が降りますように。
 ――これは、私の祝福の雨だ。


--FIN--

ここでインメモリーは終わりです。
今まで本当にありがとうございました。

楽しんでいただけたなら幸いです。
エルもアールもいない最後を迎えましたが、きっとどこぞで笑ってると思います。


あまりここで長々書くわけにもいかないので!
長々としたインメモ語りはあとがきにて。


35話  <あとがき>

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