FC2ブログ
2015-09-30(Wed)

【インメモリー】34.お父さんとお母さん



【インメモリー】

34.お父さんとお母さん





 私の両親は私が小さい頃に流行病にかかって死んでしまった。
 そこから孤児院に入った。
 お母さんがいたからこそ頑張って通っていた、大嫌いな学校も休みがちになった。
 お父さんがいたからこそ頑張って気にせずにいた、私の髪や目の色をからかう子も気になり始めた。
 孤児院はとてもじゃないけれど心地良い世界だとは思えなくて、私はずっと流行病っていう存在を憎んでいた。今でも憎いと思っている。
 ただ、私がずっと孤児院に引きこもっていたら、きっとこうやって流行病を倒してやろうだなんて、何でも治す薬を作ってしまおうだなんて絶対に思わなかった。
「ねえ、ベン」
 この目の前のベンに引き取って貰えて私は本当に良かったと思う。
相変わらずの私の指定席であるアスターの端っこのカウンター席で苦いコーヒーを両手で包み込む。苦手だったコーヒーは、夜更かしして勉強するときのお供になっていた。得意とはまだ言えないけれど随分味に慣れてしまったのは事実だった。
 私は時々こうやって砂糖もミルクも入れないコーヒーを淹れてもらってはあの二人を思い出す。まだ慣れない思い出の作業だ。
「なんだい、ルル」
 手元で開きっぱなしだった本を閉じて頬杖をつくと、キッチン側にいるベンがカップを布巾で拭きながら顔を向けてきた。
「私、ベンのことをお父さんだって呼んだことがない」
「そういえばそうだね」
 引き取ってくれたベンは戸籍上父にあたる存在だ。だけれど私は彼を父とは思っていない。ベンはベンだし、お父さんはお父さんだ。
「それに」
「うん?」
 小さくため息をつく。
 こんなことになるなんて想像ができていたら、もう少し心の準備もできたのに。
「……私、お母さんだなんて呼べないわ」
 私の神妙な声にベンが一瞬きょとんとしてから、小さく吹き出した。ベンは笑いながらキッチンにカップを置き、私に手を伸ばしてくる。ベンの大きな手が私の髪を撫でた。
「俺だって呼んでだなんて言わないよ。好きに呼ぶといい」
「でも……、その、再婚したらベンの奥さんでしょ」
「そうだね。――やっぱり反対の気分になったかい」
「反対だなんて思わないわ。ただ、ちょっと気恥ずかしいだけ。――お母さんまで増えるなんて」
 ベンが今度再婚するらしい。
 聞かされた時、私はとても驚いたし意味が分からなかったけれど、すぐに祝福した。どうしてこのタイミングで、と思ったけれどベンはベンなりにいろいろ考えたんだろうと思う。
「家族なのに、そういうふうに……お父さんだとかお母さんだとかいうふうに呼ばないのは、おかしくない?」
「呼びたいなら呼べばいいけれど……。君の中のお父さんはお父さんだけなんだろう?」
「ベンはそれでいいって言ってくれたけれど……」
「大丈夫だよ。彼女もそんなこと分かってる。今までどおりでいい」
 そういうものなんだろうか。
 私がコーヒーを口にして視線を落とすと、カランカランとアスターの扉が開く音がした。ベンが「やあ」と柔和に微笑んだのが見え、私もそちらを振り返る。
「サラ」
 私が呼ぶと、サラは「あら何飲んでるの?」とヒールをカツカツと鳴らしながら私のカプを覗きこんだ。「コーヒーね」と彼女が笑うので私は「時々飲みたくって」と笑い返す。
 サラが私の隣に腰を下ろすと、ベンが何も言われてないのに彼女にコーヒーをだした。
「ありがとう、ベン。――何の話をしていたの?」
 くすくすと笑ったサラがコーヒーを飲んでから私の前に置かれた本を手にとった。
「あらやだ、こんな難しい本読んでるのね」
「面白いわ。サラも読む?」
「ありがとう。でも私の趣味じゃないわ。ふふ、ルルったら私よりも随分読書家になったわね」
 サラの部屋にはたくさんの本があって、私はそれを片っ端から読んだ。流石に兵法だとか格闘術とかそういう本は手に取っていないけれど。
「今日はどうしたんだい。店も休みなのに」
「あら、おじゃま虫だったかしら? ルルと二人っきりっていうのもあと少しだものね」
「そういう意地悪をいいに来たならおじゃま虫かもしれないよ」
 サラの茶化した言い方に答えたベンのほうが意地悪そうな顔で笑っている。
「そういうこと言ってると叩くわよ。――前を通ったら、あまり明るい話をしているように見えなかったからどうしたのかと思って」
 そういったサラが私を覗きこんだ。私が何度かまばたきをすると、サラが片手でぐっと頭を抱え込むようにして私を引き寄せた。……なんだか男前な方法だ。
「ねえ、ルル。嫌なら嫌ってちゃんと言いなさいね」
「え?」
「結婚の話。何かひっかかることがあるんじゃないの? ほら、ベンには言えなくても女同士なんだから言えることもあるんじゃないかしら」
 ひそひそとサラが声量を落としたけれど、ベンには丸聞こえだ。ベンが苦笑いをして「はいはい。男の俺は退散するよ」と呟いてから自身用にコーヒーを入れて階段を上がっていく。
 その背中を二人で見送ってから、くすくすと誘い合わせたように笑った。
 そのままその日は、何故か私とサラは身を寄せあって誰も居ないのにひそひそと顔を近づけてたくさん話をした。最近のどうでもいい話も、学校でマイクっていう同学年の男子がしつこい話も、親友のアイリスの話もたくさん。
 私が気にしていた「お母さん」問題もサラは笑い飛ばしてくれて、私の心の荷も一緒に吹っ飛んでいった。こうやって明るいサラが好きだ。
「ねえ、サラ」
「あら、なあに」
「ずっと私のお姉さんでいてくれる?」
「ふふ、そんなこと心配していたの? ルルもあの二人もずっと私の可愛い可愛い妹と弟たちよ」
 笑い飛ばすような声に、ほっと息をつく。そして私は半分ほどになったコーヒーに角砂糖と一つ落として微笑む。
「――それを聞いて、少し安心した」
 サラにもたれかかる。サラも私にもたれかかった。
 半分のコーヒーが砂糖に染みこんでいく。


--FIN--

少し未来のお話。


33話  35話

目次
スポンサーサイト



テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

コメント

No title

ルルたんほんと可愛いです!
喋り方だけで落ち着いてるのが分かるし、時間がゆっくり流れてる感じもします!
サラとルルたんの関係が素敵すぎます。
ランジェリーふたりで買いに行って欲しい。
それを尾行する双子とか妄想してました。
インアス相変わらず洋画のような雰囲気でステキです!
また更新を楽しみにしてます。

>まさきちさん

コメントありがとうございます!

ルルは落ち着いた素敵な雰囲気をまとったレディに成長してもらいたいと!
そう願いながら書いていますヽ(=´▽`=)ノ

わ~ふたりのお買い物いいですね…!
ランジェリーとか女子オーラぱねえっす。
あの雰囲気の中にいる二人とか、私が尾行したいくらいですね。

その買い物の後に、おしゃれなバーとか寄って欲しい~

インメモ残り僅かですが喜んでいただけるようしっかり更新しますね!
ありがとうございました!
カレンダー
06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
プロフィール

Nicola

Author:Nicola
Nicolaです。ニコラ。

長編小説がメインです。
時々短いのも。

何かあればコメントやTwitter(@Nicola_nn)へお気軽にどうぞ。

長編シリーズ
■連載中■

ココノアの翼】
ファンタジー/宿暮らし/精霊

Re:片思い同好会
学園モノ/青春/恋愛


■完結済■

インアスター
全157話

インメモリー
全36話
※インアスター後日譚

ニコとセシルの物語
本編10話/完結編52話

LOST WAY
全15話

ティッカータック
全104話

Heart Loser
全124話

その他小説
パロディ
※Nicolaのセルフ二次創作
※現代舞台・性転換有り

ビーカーで紅茶を
っゅさんとのリレー小説
※現在停止中

夢日記
※実際に私が夢見た内容を小説に

短編


※企画物・Twitter小説等

カテゴリ
最新コメント
カウンター
ついった
お気軽にフォローどうぞ
ついった(キャラ用)
【KNOW ME】のキャラが適当におしゃべりしてます
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

リンク
検索フォーム