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2019-08-30(Fri)

【ココノアの翼】第三章(4)秘密



【ココノアの翼】

第三章  変わる風向き
   4 秘密





 昼食を食べ終わったココノアは長靴から普段の紐靴に戻し、ウーヴァを連れて森の方へ向かっていた。あまりあちこち連れ回すなとニグニオが苦い表情をしたのをココノアは見逃さなかったが、あの苦言は先程ユイジュがしてきたリアルガーの民云々が関係していることを知っているので分かっていないふりで適当な返事だけをしてあった。
 肌の色が違うのでどうしても目立ってしまうことも、あまりここの辺りでは良い印象を与えないことも承知の上で連れ帰っているのだ。ここで引いてしまえば元も子もない。
 アーリアやテティンは持ち前の明るく大雑把な気質のおかげかそこまで気にしていないようだが、少しばかり心配性のニグニオやユイジュはウーヴァが――そして、ココノアが――変な目で見られることを気にしているようだ。
「さっき、馬車の人に挨拶したら変な顔された。テテ兄は気にしなくていいって言ってたけど、なんで?」
「この辺りで君と同じ肌の色をした人は滅多にいないんだ。町の方だと海の道もあるしリアルガーの人も歩いてるけれど――」
 森と牧草地を分ける柵の扉を開け、ココノアが手入れのされていない雑草を踏みつけた。
「こんな田舎にリアルガーの人はいない。もともとリアルガーの印象も良くないし……っと、はぐれないようについておいで」
 ウーヴァも家の敷地外へ出して、ココノアは柵を閉じた。鬱蒼とした森の中に躊躇いもなく足を踏み出す。
「ええと。どこまで話したっけ」
「印象が良くねえって」
「ああ、そうそう。……昔、この辺りに賊が出たことがあったんだ。家畜が盗まれたり、畑を荒らされたり、結構大変な騒ぎになった。――ツィーネ。クリスタル化、双剣。右手だけでいいよ」
 双剣を片手にしか持たなければ片手剣なのでは、とココノアは口にしながらちらと思ったが、光をまとって出現したツィーネを気にせず握った。目の前に飛び出す枝葉を叩くようにして切り落とし、道を開ける。
「ぞくって、悪いやつだ」
「そう、悪いやつだ。その賊が山を越えてきた山の民だったんだ」
 太い枝を、ココノアは力任せに叩き折った。
「そのせいでこの辺りは特に風当たりが強い。悪い人ばかりじゃないってことは分かってはいても、どうしても気にしてしまう。君が悪いわけじゃないし、テテ兄の言う通り気にしなくていいよ」
 道もないというのに、ココノアは迷いもせずまっすぐ進んでいく。
 ウーヴァは彼女が作っていく道を歩きながら後ろを振り返った。あの穏やかな空間を脅かした存在が自身と同じ出身者であることがいまいち結びつかない。
「……俺、悪いやつじゃねえと思う?」
 不安を孕んだ声に、ココノアは首を傾げた。
「さあ、どうだろうね。少なくとも何かしらの訓練を受けていて、武器の扱いにも慣れているみたいだよ」
 そして、代理契約を結ばれ、記憶を食われた。自分から望んで代理人を申し出たのか、立場上逃げることが出来なかったのかは分からない。
 凶悪な一面も稀に姿を現すし、少なくとも一般的な環境下ではなかったのでは、とココノアは予想を立てながら、それをあえて伝えはしない。
 あの凶悪さも、隠す術も忘れてしまっただけなのか、様々なものが剥ぎ取られた結果浮き出てきた本性なのか。それを今となって知るのは彼に代理契約をさせた相手くらいだ。
 ココノアが振り返ると、ウーヴァが難しい顔をして俯いている。悪いやつだったらどうしよう、と考えても仕方ないことを想像している顔だ。
「僕だって戦えるし、剣だけじゃなくて銃の使い方も知ってる。――僕は悪人だと思う?」
 足を止めたココノアが柔らかく笑むと、ウーヴァはぱっと顔を上げて首を振った。
「ココちゃん、悪いやつじゃねえよ」
「そう見えてるなら良かった。それじゃ、君も悪いやつじゃないかもしれないね」


 暫く歩いたところで、ちょうどココノアの背丈ほどの小さな崖に辿り着いた。ココノアはひょいっと飛び降り、双剣から手を離した。対のない双剣はふわりと暖かな光をまとい、それはそのまま人を象った。
「ウーヴァ。降りておいで」
 ココノアが腰にぶら下げていた水筒からレモンの香りがする水を飲む。
 ウーヴァも同じように飛び降り、先程まで立っていた段差の上を見た。際まで草が生い茂っており、ココノアが立ち止まらなかったら崖に気付かずそのまま滑り落ちていたかもしれなかった。大した高さではないので登れないこともないが、落ち方が悪ければ怪我をしたかもしれない。
「よし、到着だ。ウーヴァ、疲れてない?」
「全然疲れてねえよ。……それより、ここ、なんの場所?」
 到着地点というわりに何かがあるわけではない。
 綺麗な泉が見えるわけでも、川のせせらぎが聞こえるわけでも、香る花が背を伸ばしているわけでもない。
 そんな何もない場所でココノアが両手を広げてにっこりと笑った。
「僕とツィーネが出会った場所だ。他人を連れてきたのは君が初めてかな」
『俺はそのまま二人の秘密にしておきたかったよ、俺のココ』
 ツィーネがすかさず一言申し立てるが、ココノアはにっこりと黙殺した。そして、目を瞬かせるウーヴァを手招く。
「ココちゃんとツィーネが? なんで?」
「僕が小さい頃、そこの崖に気付かずに落ちたんだ。まだこんなに小さい頃だったかな」
 ココノアが手のひらを下げて身長を表した。
「腕に大きな擦り傷が出来て、足もくじいて。どうやっても登れないと思って泣きそうになってたら」
「いや、泣きそうじゃなくて泣いていたよ、俺のココ」
 細かな修正が入り、前髪を触っていたココノアは「う」と言葉に詰まった。
『そこは黙っててほしかった』
『どうして? 泣いているココもたまらなく好きだよ』
 そういう問題ではない、とココノアは溜息をひとつ吐いてから適当な場所に座り込んだ。
「……とにかく、ここで途方に暮れていたらツィーネが助けてくれたんだ。家まで送ってくれたから、父さんも母さんもとてもびっくりしてたのを覚えてる。……それから契約を結ぶまではここを待ち合わせ場所にしてよく遊んだよ」
 あまり他人に話したことのないツィーネとの出会いにココノアはなんとなく照れくさくなりながら、体重を背中に移動させた。するりとツィーネが背中を支えるように座り込む。
「ココちゃんとツィーネの場所……」
 ウーヴァもぺたりと地面に座り、落ち葉が積もり腐ったふかふかの土を手で押した。
「すげえいい場所。これ、気持ちいい」
「お前が土の良さを分かるとは思っていなかったよ」
 ツィーネがつんと尖りのある声をだし、手のひらをぐいと土に沈ませた。まるで水の中に手を差し込むかのように、抵抗もないスムーズな動作だった。
 人間ではありえない状態にウーヴァが目を大きくして「すげえ」と彼の手元を覗き込んだ。間にココノアを挟んだような状態になり、狭い空間に三人が収まる。
 途端。
「ツィーネ。やって」
 ココノアの囁きに反応して、柔らかな土が一斉に壁のように立ち上がった。生い茂る木々を縫って伸び上がった壁が空をも塞ぐ。
 暗闇。
 土のひんやりとした湿度に包まれた空間にウーヴァが狼狽えて肩を壁にぶつけた。
 ココノアはその場からぴたりと動かないまま、すぐ近くにいるウーヴァの腕を掴んだ。驚いたウーヴァが「わ!」と大声を出して、またどこかをぶつける。
「ウーヴァ。大丈夫だ。それとも暗いところが怖いかな」
「わ、わっ、ココちゃん。どこ? これ、ココちゃん?」
「この中には僕とツィーネと君しかいないよ」
 ココノアはいつの間にか背中から居なくなっているツィーネを探すように見えない暗闇の中で視線を上げる。
「なんだ、これ。土が、急にぶわーってなって、なんで」
「ウーヴァ、落ち着いて。ツィーネがクアルツで操ってるだけで、怖いものじゃない」
 おろおろと動くウーヴァの大きな手の平を探り当て、ココノアは両手でそれをぎゅっと握る。
「――僕とツィーネが契約を結んだ時も、こうやって秘密の空間を作って、二人だけの秘密を作ったんだ」
 誰も、何も――他の精霊の欠片さえ許さない、閉ざされた秘密。
 見えないツィーネに微笑む。
「君も、秘密を共有しよう」
 そして、目の前にいるはずであろうウーヴァに向け、にんまりと笑みを大きくした。


<<<< 第三章 続く >>>>


内緒話を表す音?に「ごにょごにょ」とかありますけど、最高に可愛いひらがな羅列だなって思ってます。


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プロフィール

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Author:Nicola
Nicolaです。ニコラ。

長編小説がメインです。
時々短いのも。

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■連載中■

ココノアの翼】
ファンタジー/宿暮らし/精霊

Re:片思い同好会
学園モノ/青春/恋愛


■完結済■

インアスター
全157話

インメモリー
全36話
※インアスター後日譚

ニコとセシルの物語
本編10話/完結編52話

LOST WAY
全15話

ティッカータック
全104話

Heart Loser
全124話

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※現代舞台・性転換有り

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※現在停止中

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