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2019-08-08(Thu)

【ココノアの翼】第三章(2)家族の空気



【ココノアの翼】

第三章  変わる風向き
   2 家族の空気





「な、なあ、ちょっと。ウーヴァ、聞いてもいいか」
 テティンに声をかけられたウーヴァは緑の目をぱちくさせてから頷いた。
「ココとどういう――」
「どういう関係でもないってさっき言ったはずだけどなあ」
 兄の背中を強く叩いたココノアがウーヴァを見上げて「ウーヴァ、おいで。案内するよ」とサイズの大きな長靴を持ち上げてみせた。
「……テテ兄、変なこと吹き込まないでよ」
 そして、ココノアは赤い目を細める。わざとらしく頬を膨らませて首をかしげると、母と同じ色をした髪がばさりと揺れた。
「これもさっき説明したけど。ウーヴァは記憶がない分、なんでもかんでも覚えるんだから」


 ココノアは自身も長靴を履き、畜舎の中を回っていく。ウーヴァが知らない動物がいれば説明し、触り方も教えていく。
 とはいえ、山羊がたくさんに、馬が少し、鶏が騒がしいくらい――と種類自体は多くない。ウーヴァも動物を恐れることもなく、ニグニオのお古の長靴を履いて動き回っている。鶏を抱えた時に羽ばたかれたのにはかなり驚いていたが、それでも臆することもなく奥にあった卵を拾い上げて「見つけた!」と大喜びしていた。
 馬のいる畜舎ではニグニオが掃除をしている最中だったのでほんの少しだけ手伝いをしたりもしつつ、ココノアはウーヴァを連れて丘の上の方まで登ってきていた。
「ココちゃんの家、動物たくさんいるんだな」
「あはは、君が動物を苦手にしなくてよかった。明日からは家のことを手伝ってもらうよ。餌をやったり、さっきみたいに掃除をしたり。牧草のこともあるしね」
 ココノアがふっさりとした草の上に座り込んだ。ウーヴァも隣に腰を下ろし、心地よく吹く風に吹かれる。
「それとは別に、行きたいところもあるし」
「行きたいところって?」
 ココノアは答えず、後ろに手をついて顎を上げた。逆さまの視線が丘を下り、その先に広がる鬱蒼とした森に固定される。
「僕とツィーネが出会った場所」
『懐かしいね、俺のココ。あの時から変わらず、たまらなく好きだよ』
 姿の見えないツィーネに向けて口角を僅かにあげ、ココノアはそのまま草の布団に倒れ込んだ。
『あの時とは違って僕はもう大人だ。動ける範囲も広くなったし、繋がりも作った』
『流石だね、俺のココ』
 ココノアは頬に触れる草にくすぐったさを感じながら青い空を見上げる。夏の一番暑い時期はすぎたが、それでも日差しはまだまだ力強い。
「ココちゃんとツィーネが出会った場所?」
「そう。あの奥の森の更に奥。――懐かしいなあ。僕が足を滑らせて」
『小さな崖を落ちてきたココを俺が助けたんだったね』
「ツィーネに助けられて。それから暇さえあればツィーネに会いに行くようになって」
『そして、契約をしたんだよ、俺のココ』
 ツィーネが合いの手のように言葉を挟んでくるので、口にしている内容がこんがらがってココノアは口をつぐんだ。
「ココちゃんとツィーネが出会ったの、いつ?」
「もう十年以上前だ。僕が九つの時だったから」
 ばさりとウーヴァが隣で倒れた音がした。がさがさと草がこすれる音に心地よさを感じ、ココノアは目を閉じる。草の青臭さと土のしっとりした匂いが混ざっていて肺を満たしていく。
 海に近い商の町の匂いも嫌いではないが、この塩気ではなく土や草の匂いの方が慣れ親しんだ時間が長い。体に染み込むように落ち着いていく。
「あっという間だったなあ」
 ココノアが右手を広げて伸ばした。空の上、ここからでも天空都市ラズワードが見える。
『神様、か』
 手のひらに被せた天空都市ラズワードを握りつぶし、ココノアはその拳を腹の上に置いた。


「明日からもしばらくは神様の機嫌もいいみたいだし、良かったわね」
 そう言ったアーリアがキッチンから持ってきた鍋をテーブルの真ん中にどんと置いた。
 テーブルには今朝絞ったばかりのミルクをふんだんに使ったスープに、そのミルクから作ったチーズ、鶏肉と交換で貰った固いパンと大皿で置かれたサラダがまとめて並んでいる。
 今までは宿スミレや外食など、少人数で食べることが殆どだったウーヴァは鍋のまま置かれたスープに目をぱちくりした。
「食べる分だけ自分の皿にとって食べる。ゆっくり食べてるとテテ兄に全部食べられるから気をつけて」
「なんだとう!」
「ココ、そう言わず最初の一杯くらいとってあげなさい。突然そう言われても慣れないだろう」
 ココノアはニグニオに「はい」と返事をし、隣に座っているウーヴァにまずは指を組むように促した。
「ご飯前の習慣。恵みとなんとかかんとかに感謝してから食べるんだ」
 雑なココノアの説明にアーリアが溜息をついて口を開こうとしたが、彼女がお説教になる前にとテティンが「自然の恵みと、今日という命に感謝して。いただきまーす」とフライング気味で食前の言葉を放った。そして、それに引っ張られるようにそれぞれが「いただきます」と口にする。
 きょときょとと様子を眺めていたウーヴァが一拍遅れて「いただきます」と発するのに合わせ、ココノアはウーヴァの皿にスープをたっぷりと注いだ。
「はい、どうぞ。足りなかったら後は自分でとって食べて。サラダも食べないと母さんにも怒られるよ」
「そういうココは普段からしっかり野菜も食べてるの?」
「心配しなくても食べてるよ」
 自分の分のスープとサラダもとったココノアは母の心配を適当にあしらいながらパンの上にチーズを乗せて口いっぱいに頬張った。
「ならいいんだけどねえ。ウーヴァ君、ココって少し変わってるでしょ。迷惑かけてない?」
 アーリアの心配にココノアは咀嚼しながら眉間に皺を寄せたが、すぐにそれを解く。
「ココちゃん、変わってんの?」
「あらやだココちゃんだって! お父さん、聞いた? ココちゃんって」
 半ば無理やり飲み込んだココノアが「僕がちゃん付けで呼ばれるのってそんなにおかしい?」と苦笑いを浮かべる。
「それに、変わってるとか言ってないで、ウーヴァの面倒ちゃんと見てるんだから褒めてくれないかな。僕の店を手伝えるようになったし、お金の計算も教えたし」
「ココちゃんがやりかた教えてくれた!」
「あの勉強嫌いのココが?」
「ユユ兄みたいな複雑な計算が出来なくたって店のやりくりは出来るよ」
 にっこりと――少々兄に向けて強めの笑みだ――したココノアがそのまま自分の話ではなくウーヴァの話に持っていき、会話だらけの賑やかな食卓を彩った。


<<<< 第三章 続く >>>>


ココノアがココちゃんって呼ばれるだけで盛り上がる家族。


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Author:Nicola
Nicolaです。ニコラ。

長編小説がメインです。
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ファンタジー/宿暮らし/精霊

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※インアスター後日譚

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