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2019-07-23(Tue)

【ココノアの翼】第三章(1)草原の家


【ココノアの翼】

第三章  変わる風向き
   1 草原の家





 何人かで相乗りをした大型四輪車から降りたココノアは道中で仲良くなった乗客を手を振って見送った。
「ココちゃんの家、この辺り?」
 ココノアと一緒に降りてきたウーヴァは前に抱えていたリュックサックを背中に戻しながらきょろきょろと辺りを見渡すが、近くには家はない。
「いいや、この道をずーっと歩いていったところ。途中で馬車が通りがかったら乗せてもらおうかな」
 田舎という文字にふさわしい広々とした空間でココノアが歩き出すと、ウーヴァもそれに続いた。そして、今まで姿を消していたツィーネが光をまとって姿を現す。
「ココ、向こうから馬車が来るよ」
 ココノアはツィーネが示す方へ顔を向けた。幌のついた馬車がのんびりとろとろとこちらに向かってやってくる。その馬車に乗っている女が知り合いだと分かったココノアは大きく手を振った。


 水中都市ジェードから戻ってきてしばらくは宿スミレにいたココノアたちだったが、今は人口の多い地区を離れて田舎にあるココノアの実家を目指していた。最初に乗っていた乗り合いの四輪車は隣国アンバー行きだったので途中で降り、今は通りすがりの馬車に乗り込んでいる。
 ココノアは子供の頃から世話になっている女の隣に座ってけらけらと話し、ウーヴァとツィーネは後ろの荷台に並んで座っていた。
 年に何度も帰らないココノアは久しぶりに会う女と話す内容が尽きないらしかったが、そうしているうちに白に塗られた柵の近くまでやってきた。女も道中の退屈さが紛れたようで、日焼けで染みのできた顔をほころばせて馬車を停める。
「それじゃあ父ちゃんと母ちゃんによろしくね」
「そっちこそ、みんなによろしく。ありがとう」
 馬車から降りたココノアは後ろのウーヴァに「降りていいよ」と声をかけてから、馬車を引く馬の首を撫でた。馬もココノアには慣れた様子でぶすぶすと鼻息を鳴らしながら大人しく撫でられている。
「ありがと」
 荷物を抱えたウーヴァも前へやってきて礼を言うと、女は僅かに顔をひくつかせてから「いいってことよ、このくらい」と手を振って、さっさと馬車を動かし始めた。
 ココノアは馬車がある程度離れるまで手を振り、手を降ろすと同時に大きく息を吸い込んだ。
「はー、遠かった。――さあ、ウーヴァ。いらっしゃい。ここが僕の家だ」
 そう言ってココノアが柵の前で両手を広げた。
 柵の中には広大な土地に緑が茂り、緩やかな丘の途中に建屋がある。柵に区切られた中では山羊がもしゃもしゃと草を食い、人の姿はない。
「……家って、スミレみてえなのじゃなくて?」
「確かに家っていうとそうなるか。じゃあ言い換えよう。ここは僕の家族がいる農場だ」
 にこりと笑ったココノアが閂を柵の外側から手を入れて引き抜き、門を開けた。
「ペンキを塗ったのはテテ兄かな。塗りが甘い」
 そんなことを言いながらココノアはウーヴァを手招いた。


 ココノアはウーヴァのいう「家」と呼ぶに正しい建物の前を素通りした。
「これ、家じゃねえの?」
「家だよ。だけど、この時間だとみんなあっちにいるからね」
 そう言ったココノアが迷わず近くの建屋に向かっていく。ウーヴァが畜舎特有の動物臭さに不思議な顔をしてついてくるのを面白く思いながら、ココノアはケコケコと鳥の鳴き声がうるさい扉をスライドさせた。
「ただいまー」
 重く錆びた音で開いた扉に気付いたのは、中にいた一人の男。飼料が目一杯入ったバケツを鶏小屋にいれようとしたままのポーズで固まっている。
「ココ!?」
「ねえ、母さんと父さんは? 先にウーヴァを紹介しておこうかと思うんだけど――」
 ココノアより幾つかだけ年上に見える男は彼女の台詞を最後まで聞かず、バケツを置いて――餌を待っていた鶏からは大ブーイングのようだったが――悲鳴のように「母さあああん!」と大声を上げて奥へ走っていく。
 普段から騒がしい兄ではあるのだが、ここまで大騒ぎされる理由が分からず、ココノアは眉間を寄せてから後ろのウーヴァとツィーネを振り返った。
「……僕の顔、また腫れてる?」
 水中都市ジェードの傷はすっかりよくなり、ココノアの顔はすっかり元通りである。
「いつもどおりだよ、俺のココ」
「腫れてねえよ」
 あの時の事件に関しては捕まった男がようやく供述を進めたらしいとセジャから聞いていたが、根本的な解決にはまだ遠いだろうと彼女は電話口で呻いていた。
「母さん! ココが! ココが男連れて帰ってきた!」
 ココノアが顔の確認をしているうちに、兄がわたわたと戻ってくる。
「騒がしいわねえ。男って言ったって、あの子でしょう、いつもの精霊くん――って、あら」
 兄が手を引っ張ってきたのはつなぎを来た茶髪の女だった。ココノアとそっくりの髪をした彼女は黒い目を大きくして首を傾げた。
「あんた、また別の精霊くん連れてきちゃったの」
「目え見ろって母さん! こっち人間!」
 ココノアは肩をすくめ、母親とは反対側に首をかしげた。
「……手紙、読んでない? 向こうを出る前に出したのがあるんだけど――」
 おかしいな、とココノアが眉間に皺を寄せた時。
「お手紙でーす!」
 開いていた畜舎に気付いた郵便屋が顔を出した。その手が揺らしている見慣れた封筒を見て、ココノアは「……今届いたみたいだ」と苦笑いを浮かべた。


「ちょっとした成り行きで僕が面倒をみてるウーヴァ。力仕事なら任せられるし、経験にもなると思って連れてきたんだ」
 ココノアよりも到着が遅かった手紙は開かれることなく、ひっくり返ったバケツの上に置かれている。ウーヴァが「俺はウーヴァ。ココちゃんと一緒の仕事してて……」とわたわた自己紹介を始めようとするのを制し、彼女は作業中のところを招集した家族に手を向けた。
「こっちが僕の家族だ。父さんのニグニオと、母さんのアーリア。で、こっちが一番上のユユ兄で、さっき大騒ぎしてたのがテテ兄」
「ユイジュです、どうも。こっちはテティン」
「ええと、にぐにお、あーりあ……ゆいじゅ、ててぃん……」
 ウーヴァが指を折りながら名前を確認していくので、アーリアはからからと笑ってそれを制した。
「そんなかしこまって覚えなくていいのよ。おばちゃんとおじちゃんで十分」
 突然の来客でも気にした様子が全くないアーリアの隣で大柄のニグニオがほんの僅かに遅れて微笑んだ。
 追い返される様子もなく、とりあえずは顔合わせに成功したココノアはひょいと肩をすくめてから家の方を指差した。
「ということで、ウーヴァを泊めてもいいかな。部屋はどこを使ったらいい?」


<<<< 第三章 続く >>>>


ココノアの帰省です。
ツィーネ以外の誰かを連れて帰るのは初めてです。


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プロフィール

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Author:Nicola
Nicolaです。ニコラ。

長編小説がメインです。
時々短いのも。

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長編シリーズ
■連載中■

ココノアの翼】
ファンタジー/宿暮らし/精霊

Re:片思い同好会
学園モノ/青春/恋愛


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インメモリー
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※インアスター後日譚

ニコとセシルの物語
本編10話/完結編52話

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ティッカータック
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